【国家の流儀】

米大統領選は、投開票から2週間になるが、最終決着が付いていない。主要メディアは民主党のジョー・バイデン前副大統領の当選確実を報じたが、ドナルド・トランプ大統領は不正投票疑惑を指摘して敗北を認めず、法廷闘争も始まった。「第2の南北戦争」といわれるほど米国は分断している。こうしたなか、バイデン政権が誕生すれば、米国の景気は落ち込み、米軍は削減され、「米国の弱体化」が加速するとの分析がある、日本の防衛を米国に依存する時代は終焉するのか。評論家、江崎道朗氏が集中連載「国家の流儀」で考察する。

不正投票疑惑のため、米大統領選の決着が遅れそうだ。

米国という国は、世界戦略を構築し、世界各地の紛争に対応する能力はずば抜けている。だが、自国の大統領選挙の投票となると、これまでもトラブルが多発しており、不正もあった。だが、そうした不正を発見・報道し、是正することができるのが民主主義国家の良さでもある。

中国のような一党独裁の国でも選挙は実施されているが、不正事件は発覚しない。不正があったとしても、それを告発した人は「反政府活動をした」と見なされ、逮捕されるだけだ。

香港の選挙でも、中国共産党による言論弾圧を批判した人は立候補を取り消され、次々と逮捕された。米国のように選挙の不正事件が報じられ、裁判所で審議されるのは、「言論の自由」が保障された健全な社会であることの証しなのだ。

とはいえ、米国の次期大統領がなかなか決まらないというのは困ったことだ。来年1月下旬まではトランプ政権の任期だ。問題はその後だ。そこで世界各国は、トランプ政権と引き続き協議を進める一方で、民主党のジョー・バイデン陣営とも連携を強めている。

どちらが大統領になるのかは、米国自身が決定することだ。そして、その決定が遅れるのであるならば、外国としてはどちらが大統領になっても対応できるよう、両陣営と連携を深めざるを得ない。

そんな二股外交は信義に反するという意見もあるだろう。だが、危機管理の観点からリスク分散を図るのは当然のことだ。現に、日本の菅義偉政権は二股外交を堂々と進めている。

例えば、菅政権は中国との関係重視を明言する一方で、トランプ政権と連携して台湾のWHO(世界保健機関)総会参加を支持する発言を繰り返している。11月10日、オンライン形式で開かれた総会でも、日本は、コロナ対策で成功している地域として台湾の名前を挙げ、台湾のWHO参加を支持した。中国は激怒しているはずだ。

実は、2017年に発足したトランプ政権は国家戦略を全面的に見直し、「中国とロシアこそ最大の脅威だ」と規定した。この変更に伴い、中国を仮想敵国とみなして、中国の通信機器最大手「華為技術(ファーウェイ)」を排除したり、米国内の産業スパイを取り締まったりするなど、中国の「覇権主義」に対抗してきた。

一方、民主党のバイデン氏には、米国にとって最大の脅威は「中国」ではない。人種問題を含む米国内の「格差是正」と「地球温暖化対策」が最優先課題なのだ。

しかもバイデン政権になって「格差是正」政策が推進されるならば、米国の景気は悪化していくことになる。

何しろバイデン氏は、格差是正のために、富裕層への増税と貧困層に対する社会保障の拡充を訴えている。最低賃金の引き上げや労働組合の加入促進なども公約に掲げている。

■日本は「自由と繁栄のアジア太平洋」構築の自覚を

コロナ不況で景気が落ち込んでいる中で、法人税増税と企業の医療保険料の負担増、そして最低賃金引き上げに踏み切れば、雇用は間違いなく悪化する。しかも労働組合が強くなることになれば、企業はより人件費の安い海外に生産拠点を移すことになろう。

地球温暖化対策でも、2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指し、気候変動に強いインフラ整備を進めるべく4年間で2兆ドル(約209兆8400億円)を投資する予定だ。その予算を捻出するため軍事費も削減されることになる。

要は、バイデン政権になれば米国は軍事的にも経済的にも弱体化していくことになる。米国におんぶにだっこの時代は終わりつつあるのだ。

言い換えれば、アジア太平洋の自由と繁栄を守るため、日本も大きな責任を担わないといけない時代が到来することになる。そして、すでに日本はその責任を果たしつつある。

というのも、第2次安倍晋三政権の主導で、日本と米国、オーストラリア、インドによる「日米豪印戦略対話(QUAD=クアッド)」が強化され、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も締結されている。

日本主導で、自由と繁栄のアジア太平洋「安全保障・経済」ネットワークを構築してきていることに、もっと自覚と自信を持ちたいものだ。