菅総理による日本学術会議の会員任命拒否問題をめぐって、中国が科学技術の発展のため、海外の優秀な科学者などを招致する国策「千人計画」に注目が集まっている。

多額の報酬や研究費という好条件に、世界の頭脳と技術が中国へと流れる中、日本からも研究者が参加しているとも言われている。

その中には日本学術会議の元会員の名前もあり、2015年には日本学術会議と中国科学技術協会との間で「共通の科学的な利益のある分野において協力を行うこと」という内容の覚書も交わされている。

また、自民党の甘利明衆議院議員がブログに「『千人計画』には間接的に協力しているように映ります」と綴っていたことも拍車をかけ、ネット上には日本学術会議が中国の「千人計画」に協力しているのではという憶測が広まった。

これに対し加藤官房長官は「二国間の枠組みを通じた学術交流を行っているが、中国の千人計画を支援する学術交流事業を行っているとは承知していない」と回答。

甘利氏も「「積極的に協力」と云う表現が適切でないとしたら改めさせて頂きます」と記述を改めた。

日本学術会議も「そのような事実はない」と、千人計画との関係を否定。中国との交流についても「内閣府が決めた予算の中に二国間交流はゼロだ。予算がない以上、何もできない」と説明している。

一方、病理専門医で科学・技術ウオッチャーの榎木英介氏は「研究者にとって中国が魅力的だというのは理解できる。

今の日本の若手研究者の悲惨な状況を考えれば、オファーされたら行っちゃうんじゃないかなというくらいの待遇だ。

そのくらい、日本の環境は不安定だし、もっと言えばポストが無い。

それなのに、倫理観だけで行くのを止めろとというのはどうだろうか若手研究者の待遇の問題も、いわば安全保障の一つではないか」と話す。

主要国の研究開発費総額の推移を見てみると、アメリカと中国は年々増加しているものの、日本は横ばいが続いている。

また、中国共産党中央組織部が実施する海外ハイレベル人材の招致プログラム「千人計画」は政府が1500万円超を一括助成するほか、研究チームに1.5億円超の研究・生活環境を提供。省によっては配偶者の仕事・子どもの進学なども支援する。

すでに米・英・独・仏・豪などから研究者が採用されており、日本からも1000人以上が参加したとの見方もある。

他方、ハーバード大学化学・化学生物学部長が「千人計画」への関与を隠し研究、虚偽証言で刑事訴追されたケースや、オクラホマ州の石油企業の科学者が10億ドル以上相当の高度技術を盗んだケースも報じられており、FBI長官は「千人計画」の危険性を表明している。

ジャーナリストの古森義久氏は

「毛沢東の言葉に“政権は銃口から生まれる”というものがあるくらい、中国と日本とでは軍事に対する考え方が異なる。

また、習近平政権が大きく打ち出した国策の1つに“軍民融合”というものもある。

そういう枠組みの中で科学技術はどんどん軍の方に流れていく。

アメリカではFBIのレイ長官が7月の演説で千人計画の脅威を呼びかけている」と話す。

他方、元経産官僚の宇佐美典也氏は「リーマンショックの前から日本の電機産業の経営が苦しくなり、競争力が弱っていた。

そういう中で、研究者たちも自分の研究の出口がないという状況になった。そこで企業と大学に協力してもらい、研究プロジェクトを立ち上げ、拠点を作っていた。

しかし、世界有数の研究結果を出しても、国内には引き受け先がない。そこで中国や韓国がどんどん実用化していった。

いわば、日本の研究コミュニティ全体が千人計画的なものに協力していたような状況があった」と明かす。

「例えば中国の半導体業界でDRAMの技術化を引っ張っているのは、日本の旧エルピーダメモリの坂本幸雄元社長(現在は中国半導体大手の紫光集団の高級副総裁)だ。

エルピーダが潰れてマイクロンという会社になったので、国内に居場所がなくなったからだ。

実はこのマイクロンという会社が、中国の半導体の会社が技術を盗んだということで訴訟を起こしている。

そういう構造もあるということだ。

日本は今になって規制を見直そうと、大学や学術会議に政府が口を出し始めているが、そういう状況を作ったのは自民党や霞が関、民間企業だということだ。

だから学術会議を悪者にしても何も始まらないし、中国が研究者を厚遇している以上、こちらも環境を整えなければ、ただやせ我慢をしろと言っているのと同じだ。

単純に安全保障の理屈を押し付ければいいというわけではないと思う」。